私と声優の出会いは一冊の本でした。当時私は広告代理店に勤めており、たまたま資料として「声優養成所ガイド」が置いてありました。何気なくパラパラと捲っていくうちに、声優が楽しそうで、自分もやってみたいと思うようになりました。
“きっかけ”は面白いもので、一冊の本で自分の世界が変わってしまうのです。声優の道に足を踏み入れてからは、けっして順風満帆だった訳ではありません。思ったように演じることができず、すっかり自信を失い、この仕事を辞めたいとまで思った時期もありました。何もかもがわからなくなってしまい、ディレクターの言われるままに演じればいいと、ほとんど受け身の姿勢でした。
そんなある日、収録後に設けられた飲み会の席でディレクターとプロデューサーが作品の方向性について言い争いを始め、二人の涙を見ました。それは作品への“愛”があるからこそのもので、自分の作品に対する愛の未熟さを痛感させられました。この経験は声優という仕事への取り組み方を考え直す、いい“きっかけ”だったと思っています。私たちの仕事は作品をより面白くするための要素の一つであるという責任を持ち、そこには多くの“愛”が存在していることを認識するようになりました。
私が声優として演じる上で心がけていることは「役に対する誠意」、これも一つの“愛”だと思っています。声優は職業で、その養成所は職業訓練所です。学生の延長ではなく社会人としての自覚を持つようになると、自分のやるべきことがおのずと見えてくると思います。私も仕事の楽しさに大事なことが見えなくなる時があります。反省ばかりしていますが、先輩/後輩に関わらず、お仕事で一緒になった皆さんがいつも新しい刺激を与えてくださるので、楽しみながら少しずつでも成長することが出来るのではないかと思っています。
ネクシード所属